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2015-01-09(Fri)

さよならアドルフ/泥と禊と・・・・

2012年 オーストラリア・ドイツ
さよならアドルフヒトラー政権崩壊直後のドイツ。ナチ党員だった両親をもつある兄弟姉妹の物語。戦争犯罪人となった両親は出頭し彼らは親を失う。複数の国の占領下となった土地を渡り歩き、戦争の爪あとを映し出しながら、乳飲み子を含む弟や妹4人を連れて900キロにも及ぶ祖母の上を目指します。多くの人々が生きるのに精一杯な混乱の時代の中で、彼女達の前に一人の青年が現れる。ナチの子として教育された少女の心の葛藤と価値観の崩壊。そして、二人の複雑な恋心を絶妙に描いた作品です。

主人公は一番上の14歳の少女「ローレ」。ドイツ崩壊直後、家族は身を隠すために持てるだけの貴重品を持ち家を出た。子供達は何が起きたのかも理解できぬまま山の中の農場の隣家へ。父は連合軍に出頭したのだろう。すぐにいなくなった。そして居場所を知られた(らしい?)母親は銀のスプーンを持ちだし出かけていった。帰宅した母は下半身傷だらけ。彼女は忌み嫌われる存在になっていた。どんな仕打ちを受けたかは想像通りなのだろう。ナチの歌をかけながら「もうおしまい、総裁は亡くなった!」と嘆いた。そして母親も出頭する。「戻ってこれるかもしれない。でも、もし戻らなかったら祖母の家へ」と言い残しローレに貴重品を手渡した。そして乳飲み子は殺されてしまうので連れて行けないという。冒頭のシーンで、断種法の書籍が映し出され、カルテのようなものを焼却しているシーンがある。母親が戦争犯罪人として裁かれるとすれば、ナチ党員で医者であること。「人体実験」や「断種に銘打った殺処分」に関与したのかもしれない。子供達は、そんな両親がやっていたことなど知る由もありません。そんな母親は父親より明らかに立場が上で、家庭では子供の面倒を見ているシーンもありません。いつもタバコを吸って命令するだけ。娘二人は弟たちの面倒をよく見ています。決して子供達に愛情がなかったわけではないようですが・・。そんな母が別れ際に告げた。「誇りを失わないで」

僅かな望みを期待したが母は帰らず、やがて空腹のためか、双子の弟のうち一人が隣家に盗みを働いた。小屋を借りていた隣の主人に「赤ん坊を置いて出て行け」と言われ、彼女は兄弟たちに「両親は祖母の所にいる」と言い聞かせて出て行くことを決めます。ナチスの実態を知った人達はナチ党員の子供であるというだけで彼らに冷たく、手を差し伸べてくれる大人もいません。生きていくためにはここを出る以外、他に道はないのです。ドイツ南部のシュヴァルツヴァルトから祖母のいるドイツ北部のハンブルグまで900キロ。それでも気丈なローレは弱みを見せません。だから妹と弟達もさほど不安がないように見えます。途中で道で会った人に馬車に乗せてほしいと頼むも断られるが「赤ちゃんに」と食べ物を貰うことができたため、彼女は「赤ん坊がいれば食べ物が貰える」という思い込みをしてしまうようです。当時のドイツは様々な国に占領されており、祖母のいる土地まで行くには、彼女達のいるアメリカ占領区から、ソビエト占領区、そしてイギリス占領区を抜けなくてはなりません。馬車に乗っていた人はフランス領に向かうところでした。しかも占領地を抜けるごとに「許可証」が要ることを兄弟達は知りません。私は、きっと赤ちゃんが途中で死んでしまうのだろうと思った。それほど冷たく淡々とした雰囲気で物語は進むのです。

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凄惨な遺体を目にしても、子供達は慣れっこ。 金品は生きるための物資と交換し消えていく。  この現実をドイツの一般市民は知らなかった。

ある町にたどり着き、ローレは乳をあげてくれる女性を探しだすと、いつか廃墟で出くわした青年が近くに立っていた。彼は一瞬「赤ん坊がいたのか?」というような表情をします。その町では新聞が貼り出されており、ユダヤ人虐殺の光景を写した記事に人だかりが出来ていた。それを見たローレは、その凄惨さと両親の犯した罪を知り愕然とする。その夜、ローレは新聞の写真を手で切り取り持ち出すと、あの青年が近寄ってきて「なにをしている」と切り取った写真を見ようとした。それを振り払いその場を立ち去ります。ローレが切り取った写真は、やせ細ったユダヤ人ではなく、その横にいるナチス親衛隊の男でした。なんと、父親だったのです。翌日兄弟達は街をでて歩いていると、あの青年がずっと後をついてきていた。

つけられていると知った兄弟達はある民家へ。そこでは未だ、ヒトラーを崇拝する中年女性がいました。ここの主は拳銃自殺をしていて遺体は別室で放置されています。女性に金品を渡し、少しは助けてもらいましたが、彼女はホロコーストの写真はアメリカのでっちあげだといい、弟達に戦争の歌を歌わせ高慢な態度をとります。いよいよ我慢できずこの家を出ることに。これでもう、兄弟達には頼みの綱の金品は全てなくなりました。

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青年は再び兄弟達の前に現れます。ローレが赤ん坊を抱いて彼の目の前に立っても彼は無言のまま。だた赤ん坊の顔を覗き込むだけ。こんなに接近しても二人の間には会話はありません。ローレは再び歩き出し青年はずっと後をついてきます。しかし、彼女達がある一台の車に乗った連合軍兵士に呼び止められると、青年が近寄ってきて「自分はユダヤ人で兄だ」といい、その場を切り抜けます。青年の名は「トーマス」ユダヤ人の登録証明書を持っていた。こうして彼女達はトーマスと一緒に旅をすることになります。彼は食料を調達し、弟たちの面倒を見るようになります。弟たちや妹はすぐにトーマスに懐きますがローレは違いました。両親からの影響で、ユダヤ人を受け入れず、それどこか彼を愚弄しさらには、赤ん坊目当ての寄生虫だと妹のリーゼルに話します。そして本人には「弟達には触らないで!」などと拒絶の言葉を吐いてしまう。トーマスは反発的な眼差しで彼女の足を触りはじめます。「だったら、おまえならいいのかよ」と言っているようです。脅かしで本気には見えませんが、驚いたローレはトーマスから離れます。彼は言葉少ない青年で、自分の事も語りません。だから、その心理は表情と行動からしか推測することしかできません。彼の過去になにがあったのでしょう。酷いことを言われながらも、トーマスは兄弟達から去ろうとしませんでした。

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トーマスは弟の隣で寝て、弟と話をしています。自分は盗みをはたらいて刑務所にいたといいます。弟を真ん中に挟んで、その隣にいるローレの足に自分の足を乗せてみたり、ローレの髪に触れて戯れています。ローレはそれを知っていてもじっとしているのです。ユダヤ人を見下してはいるものの、彼女はトーマスを嫌っているようにはみえません。しかし、厳格な両親に育てられた14歳のローレには、まだ恋愛の仕方など判りません。それより先に知ってしまったのは、「男が見返りとして求めるもの」でした。

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やがて、ローレの心に変化が起こりますが、ユダヤ人に対する偏見をぬぐい切れないためか、母の言う「誇り」のためか、そんな心境が彼女に突拍子もない行動をさせます。ローレは、トーマスの手をとり、自分の身体を委ねようとします。「恋心」か、「見返り」か。いずれにせよ、言葉に出来ないことが、もどかしいです。しかしトーマスは結局、それを受け入れません。「見返りならいらない」ということなのでしょう。ローレのほうは拒絶されたと思ったかもしれません。

この場所から出発する時、彼女は大事に持っていた父親の写真と、いつか街頭で切り取った切抜きを一緒に重ねて、汚泥の中に埋めます。父親が迫害してきたユダヤ人に自分たちは助けられていると自覚しているローレ。父を恥じ「決別」を決心したのではないでしょうか。

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道中、橋を渡らなければならなかったが、橋は戦争で破壊されています。トーマスは赤ん坊を背負い、泳いで渡ると言いますが、この期に及んでも、ローレはトーマスが赤ん坊をそのまま連れて逃げる気だと、彼を信用していません。そして、ローレはトーマスにも頼まず、どうにかならないかと一人で破壊された橋のほうへ行きます。すると1人の猟師がいました。「船を出して欲しい」と頼み込みますが金品もなく、相手にされません。心配し後からきたトーマスが見たものは、ワンピースの胸元のボタンを、猟師の前で開けるローレの姿。二人は罪を犯します。彼女がこのとき見ていたのは猟師ではなく、猟師の後ろで石を振りかざすトーマスの姿でした。震えが止まらないローレのワンピースのボタンを留めるトーマスの姿はまるで、妹に服を着せている兄のように見えます。

ようやくソ連占領区前にたどり着いた。しかし通行禁止になっていた為、トーマスは夜中に森を抜けるという。兄弟達は森の中を移動するユダヤ人や、行き倒れの遺体に遭遇したりして進む。そしてトーマスがポーランド語を話せることを知る。こうして何日も森の中での移動と野宿が続きます。

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休息をとり横になると、再び、トーマスはローレの傍に横たわり何も言わず手や、髪に触れるだけ。ローレは何の反応もありません。

途中、おなかがすいたという弟の為に、トーマスは、ここを動かず待っているようにと言い残すと、一人で食料を盗みに行きます。やがて遠くにいる人影を見た弟ギュンターは「トーマスが戻ってきた!」と走りその場をはなれてしまう。その結果、命を落とします。追われていたトーマスは、食料を持って戻りましたが、ギュンターが即死しているのを確認するとみんなを連れて逃げました。ローレは弟の遺体に触ることも、別れを告げることも、埋葬することも出来ませんでした。

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弟を失った悲しみを引きずりながらも、兄弟達は再び歩き始めます。やがて、最後の占領区を抜ける。もう検問はなく、列車にも乗れる。あとは、母が言った泥の道を歩くだけだ。そしてトーマスは去ろうとしていた。けれど、それを察知していたローレは引き止めます。彼女は「頼りたい」のではなく、彼に「傍にいて欲しい」存在になっていたのです。トーマスが自分ではなく、赤ん坊のほうを気にかけていると思っているローレは、「赤ん坊をあげる!弟にしていいわ!」とまで言って彼を引き止めようとしますが無駄です。しかし最終的に彼を引き止めたのは、彼女が信じていたものが全て偽りであり、、彼とその家族を苦しめたであろう、自分は「ナチの子」であることの苦悩に苛まれるのだと、プライドも、誇りも、全て投げ出し、彼にすがりつき、泣きくずれたからでした。トーマスが自分にとって特別な存在になった今となって気づいたのです。彼女はもっと早く、人種の差別から生まれたナチスの誇りなど捨てるべきでした。

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こうして全員が列車に乗りこんだ。しかし、ローレの、あの時の必死の願いは空しく、身分確認の為に列車は止められる。トーマスはあるはずの身分証を探すが無くなっていることに気づき、列車を降りた。ローレは、悲痛な表情をするが、列車内には警察官がいる。彼を引き止めるために、もう泣くこともわめくことも出来ない。「さよなら」さえいえない突然の別れ。皮肉にも、姉の心を知った弟が、トーマスの身分証を隠していたのでした。良かれと思ってやったことが裏目に出たのです。

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ローレの手元に残ったのは身分証だけになった。、 けれど、それは他人のもの。           弟は彼がトーマスではないことを知っていた。

青年を失ったローレは祖母のところで生きる屍のようになっていました。その祖母は厳格な典型的ドイツ女性でした。祖母が弟に食事の無作法を厳しく咎めると、それに反発したローレは手でパンを丸かじりして飲み物をわざとこぼし、そしてテーブルからすすり飲んでみせるのです。ドイツ人が豊かな食事を「お行儀よく」食べている一方で、収容所のユダヤ人たちは餓死してきた事を思ってたのかもしれません。両親の影響とはいえ、ユダヤ人を差別してきた自身も悔いているようにもみえます。そして、部屋に戻ると、旅の最後まで大事に持ってきた家族の思い出の品を、粉々に砕き潰すのでした。ローレがこの呪縛から開放されることは、おそらくありません。たったひとつの可能性だけを除いては・・・。

[あとがき]、
僅かな期待も裏切られる鬱々としたエンディングです。1回目に観たとき、「えっこれで終わりなの?」と誰しもが思うでしょう。しかし、2回目はそうではありませんでした。「この作品はこれでいいのかも」と思いました。本来、ハッピーエンドが好きな私ですが、この作品は好きです。謎は謎のまま。けれど、見えない向こう側にしっかりとした、別のストーリーがちゃんと出来上がっている上で、この作品が成り立っているのだろう。この青年が誰で、どんな事情で、何故、兄弟達を助けたのか。ちゃんとはっきりとした筋書があるように思います。混乱期の人々の姿を映し出しながら、主人公の、人種を超えた感情の変化、思春期の恋を絶妙なタッチで表現しています。原作は、『暗闇のなかで』の3部のなかの2部の単独の物語だというから、この作品はこのお話で完了なのですが、小説のほうには、まだ彼の境遇についてのヒントがあるかもしれません。だから、この小説は絶対に読んでみたいです。それから、この謎の青年についてですが、いくつか気づいた点を挙げておきましょう。最後の電車から姿を消した理由。彼が本当にユダヤ人であったなら、身分証明書がないからといって何故、姿を消す必要があったのでしょう。それと腕の囚人番号と思われる刺青。ユダヤ人で囚人番号があり、収容所にいたことが証明出来れば、証明書がなくとも身を隠す必要などないはずでした。しかし囚人に刺青をしていた、ただ1箇所の収容所「アウシュビッズ」では、刺青は左手首に行いました。彼は「右手」でした。つまり、彼はユダヤ人ではなかったのかもしれません。けれど家族を亡くし孤独だったことは、作品中からも想像できます。赤ん坊や弟達の扱いも上手いことから、彼には沢山の妹や弟がいたのかもしれません。彼がどこの国の人種なのかはわかりませんが、ポーランド語を話すことからポーランドに住んでいた可能性が強いでしょう。そしてユダヤ人と称して、身を隠さなければならなかった本当の理由。犯罪者であったことは確かですが、盗みだとは思えません。「映画上での殺人」は演出だというのだから、身を偽らなければならなかった彼の罪とは、殺人ではないでしょうか。おそらく家族を守るためにやったのではないかと。ここまで想像させるとは、この原作がベストセラーになるわけだわ。と納得。 最後のほうのシーンで、全く知らないユダヤ人の証明書を手にするローレが不憫ですね。このお話には、もう続きはありませんが、願わくば、二人がいつか、どこかで再会してくれればと思うのでした。(・・・・しかし!これはフィクッションです)だから、最後はこうしましょう。
彼は、ローレから聞いていた泥の道をとおり、青い風車のある大きな家を見つけるのです。ずっと兄弟のあとをついてきたあの時と同じように。
                                                                       
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                                                                やっぱりハッピーエンドが好きです
さよなら、アドルフ [DVD]


[監督]
ケイト・ショートランド
[出演]
ローレ サスキア・ローゼンダール
トーマス カイ・マリーナ -
リーゼル ネレ・トゥレープス -
ローレの母 ウルシーナ・ラルディ -
ローレの父 ハンス=ヨッヘン・ヴァーグナー




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Music for a while/Lore ナチの子供達の辿るいばらの道
しかし、ナチ教育が血肉となっている誇り高いローレはトマスを蔑み、彼の手助けに感謝することはあっても、同等に扱うことが出来ない。弟たちもトマスになつき兄のごとく慕ってはいても、心の底ではユダヤ人なんだから下等な人間、という思いを持っている。複雑な心理というか、3つ子の魂百までというか、トマスに対する理性の及ばない生理的嫌悪感とから来るローレの愛憎の表現が見事である。若い女流監督による映画作品を見る機会が、このところ多いのだが、映像に瑞々しさが溢れていて、重いテーマを扱っているのに暗さが軽減されて、美に昇華している。実に頼もしいことだと、感嘆するほかない。

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