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2013-09-29(Sun)

リンカーン /南北戦争の終結と奴隷解放

2012年 アメリカ
Abraham Lincolnこれは、第16代 アメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンが大統領に再選され2年目、南北戦争も4年目に突入し南軍の弱体が進み、戦争終結目前となってきている時期に下院にて「奴隷制度を廃止する憲法修正第13条」を通過させるまでの短い期間だけに的を絞り描いている作品である。リンカーンが奴隷制度を真に根絶させるため、奴隷制度を廃止する「合衆国憲法修正第13条」を提案したのは再選される前だった。当時は、彼の中でまだこれが現実的にはなっていなかった。彼はこの「法律の改正」を有権者にゆだねた。しかし彼は再び大統領に「なってしまう」。これによりリンカーンの決意が明確になったという描写になっている。工業化が進み奴隷をさほど必要していない北部。それに対し、未だ黒人の労働力に頼らなければならない南部。戦場は血の海。この戦争で既にアメリカは60万人以上の命を失っていた。 そんな中、奴隷制度に疑問を持ち反対する人々も増えつつあったが、法律が変わらないうちは奴隷制度は終わらない。彼は下院議会で批准させるまでは戦いを終わらせるわけにはいかなかった。

南北戦争は奴隷解放の為の戦争なのだから、単純に北軍が戦争に勝利して、南軍は降伏。
その条件として奴隷が開放されたのだろうと思っていたらそうではなかった。戦争を終結する前に「憲法修正第十三条」をなにがなんでも議会で可決しなければならなかった理由。・・

それはこの戦争は「内戦である」ということだ。戦争に勝利して、財産の没収として奴隷を解放することが出来るのは、交戦国の政府と国民の財産が対象となる。南部は国家ではない為、州法を無効にする事でしか黒人を自由にすることができない。奴隷解放の修正案が通らないまま戦争が終わってしまえば、反対派が、修正13条に賛成することなど皆無となるのは明白である。しかも、リンカーンが再選前の宣言した「奴隷解放宣言」さえ無効になってしまう可能性がある。憲法修正は南北戦争により、相手を追い詰めた「今しかできない偉業」であった。 リンカーンはこれを「鯨取り」と表現しているところは面白い。その鯨を射止める為にすべき事、まずは同じ共和党内の保守派と急進派をまとめなくてはならない。リンカーンは、保守派のブレアの協力と、黒人を白人と対等にと30年間主張していた急進派のスティーヴンスに協力を求めた。しかしそれでも20票足りない。対立する民主党を切り崩し民主党議員からの票も取り込まなければならなかった。彼らは来期の役職を与えるなどして票を集めていく。さらに、リンカーンは法案成立と同時に戦争終結を達成しなくてはならなかった。保守派であり、戦争収束を最優先させたいブレアの協力を得たリンカーンは、彼を南軍との和平工作に出向かせた。そしてブレアは南軍の使節団との会談の計画を取り付けてくる。共和党の議員のなかでも戦争を終結すべきという声は強くなってはいたが、法律を変えないまま戦争を終わらせるわけにはいかない為、リンカーンはこの和平工作の事実を「憲法修正第十三条」が議会で可決がなされるまで隠蔽する。

奴隷制度が廃止された場合に出てくるであろう様々な問題を懸念する民主党議員。リンカーンが自ら説得にあたる。「黒人が自由の身になったらどうなる」という疑問にリンカーンは具体的な答えをだしていない。彼の返答は「状況に合わせ実験を重ねるしかない」と告げ、最終的にはその議員の判断に委ねた。そして採決当日、裏切り者!と言われながらも賛成の声を上げたその議員の姿は印象的。
当日、票がひっくり返った事が、現実であったであろうと思う当時のこの舞台は、きっと映画よりも、もっとドラマティックだったに違いない。

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リンカーンは、若者にこう尋ねるシーンがある。生まれた時代に「ふさわしいか」と。これは自分に問いている。彼は自分がこの時代に生まれ、再選前に奴隷制度廃絶の宣言をしたが、再び大統領になった。そして南北戦争で南が弱体している、いわば「今」がチャンスであり、 非常に重要なこのような時期に「自分が大統領であるという運命」。彼は自分がなすべき事を信じて突き進んだ。

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急進派のスティーヴンスが、議会の修正案原本を持って自宅に帰ると、 家政婦の黒人女性リディアがいた。彼女は妻のように彼のベッドにいる。
ステーブンは強硬でありながらも、この女性の為に30年も戦ったのだと
いう事を想像させられる。この二つの顔を持った男は、彼女にこう告げる



「19世紀最大の法案が、アメリカで一番純粋な男によって可決された」と



とても良い仕上がりの作品です。しかし今までのスピルバーグ作品と比較すると、非常に大人しいです。最初のうちは、彼が10年以上も暖めてきた作品が、何故、この僅かな時期だけに絞られているのだろうと不思議な感じがしましたが、充分に内容の濃いものでした。そして、リンカーン本人、妻のメアリー、息子のテッド、3人とも外見が酷似しているのには感心しました。それぞれの演技も素晴らしかったです。リンカーンもしかり、メアリーの人間描写が非常にリアルです。最後に夫婦二人が馬車に乗っているとき、妻が「私はあなたを不幸にした変人女として記憶されるのでしょうね」というセリフには自覚してたのかなぁとちょっと笑いが・・。これほどの男の妻なら、さぞ良妻賢母たっだのではと調べたことがあるからです。偉人の妻は後世に一緒に記録されてしまうから大変です。長男のロバートや、それぞれの議員の人間ドラマも合わせて観察していただきたい。当然のことながら、娯楽性は全くないですが、歴史を知ることとしての教材的作品としては高く評価したい。可決までの約3ヶ月という短い期間なので、彼の幼少期からの成長過程、「奴隷たちを見て心を痛めた」というのはセリフだけにとどまってる為、それまでの心境の過程などが見えにくくなっています。純粋な伝記映画を期待したのですが、改めて思ったのは2時間や3時間では纏めるのは不可能だということ。いつの日か、リンカーンの物語をテレビシリーズで見てみたいものです。


リンカーン [DVD]

[監督]
スティーヴン・スピルバーグ

[リンカーン家]
ダニエル・デイ=ルイス - エイブラハム・リンカーン(第16代合衆国大統領)
サリー・フィールド - メアリー・トッド・リンカーン(妻)
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット - ロバート・リンカーン(長男)
ガリバー・マクグラス - タッド・リンカーン(四男)
グロリア・ルーベン - エリザベス・ケックリー(リンカーン家の家政婦、元・奴隷)

[ホワイトハウス]
デヴィッド・ストラザーン - ウィリアム・スワード国務長官
ブルース・マクギル - エドウィン・スタントン北軍長官
ジョセフ・クロス - ジョン・ヘイ(リンカーンの秘書)
ジェレミー・ストロング - ジョン・ジョージ・ニコライ(リンカーンの秘書)

[共和党]
ジェームズ・スペイダー - W.N.ビルボ共和党議員(ロビイスト)
ハル・ホルブルック - プレストン・ブレア共和党議員(保守派重鎮)
トミー・リー・ジョーンズ - タデウス・スティーブンス共和党議員(奴隷解放急進派)
ジョン・ホークス - ロバート・レーサム
ティム・ブレイク・ネルソン - リチャード・シェル
バイロン・ジェニングス - モンゴメリー・ブレア元・郵政長官
ジュリー・ホワイト - エリザベス・ブレア・リー(モンゴメリー・ブレアの娘)
S・エパサ・マーカーソン - リディア・スミス
ウェイン・デュヴァル - ベンジャミン・ウェイド
ジョン・ハットン - チャールズ・サムナー上院議員

[民主党]
リー・ペイス - フェルナンド・ウッド民主党議員(奴隷制強硬賛成派)
ピーター・マクロビー - ジョージ・ペンドルトン民主党議員(奴隷制強硬賛成派)
マイケル・スタールバーグ - ジョージ・イェーマン民主党議員
ウォルトン・ゴギンズ - クレイ・ホーキンス民主党議員
ボリス・マクギヴァー - アレクサンダー・コフロス民主党議員
デヴィッド・ウォーショフスキー - ウィリアム・ハットン民主党議員

[アメリカ合衆国軍]
ジャレッド・ハリス - ユリシーズ・S.グラント合衆国陸軍総司令官
コールマン・ドミンゴ - ハロルド・グリーン
デヴィッド・オイェロウォ - アイラ・クラーク
ルーカス・ハース - 兵士
デイン・デハーン - 兵士

[南部連合]
ジャッキー・アール・ヘイリー - アレキサンダー・スティーブンス南部連合副大統領

★受賞★
[アカデミー賞] 主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)/美術賞
[ゴールデン・グローブ賞] 主演男優賞・ドラマ部門(ダニエル・デイ=ルイス)
[英国アカデミー賞] 主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)



[リンカーンの家族]

リンカーンは1809年2月12日ケンタッキー州ラルー郡(当時はハーディン郡)で生まれる。彼の父方の祖父の名がエイブラハム・リンカーンであり、その名にちなんで命名された。その祖父は父親が若いときにインディアンに襲われ殺害されている。リンカーンの両親は無学な開拓農民であり、彼が7歳の時に一家は貧困と奴隷制度の為、自由州(奴隷のいない州)のインディアナ州へ転居した。9歳の時に母ナンシーは毒草を食べた牛の乳を誤飲したことでミルク病になり34歳で亡くなった。10歳の時に父トーマスが3人の子を持つ未亡人サラ・ブッシュ・ジョンストンと再婚した。継母との関係は良好だったようである。2歳年上の姉のサラがいたが、彼女は死産をして21歳で急逝している。

リンカーンは、正式な教育を幾人かの巡回教師から1年分に相当する位の基礎教育しか受けていなかった。それ以外ほとんど独学で、読書も熱心だった。成人してからは測量術を覚え、その後に弁護士になった。1834年下院議員に初当選し結婚後には国政へ進出した。

妻のメアリー・トッドとは1840年12月に出会い翌年12月に婚約したが、リンカーンからの申し出で婚約が破棄されている。しかし後にパーティで再会し結局、最初の出会いから約2年後の1842年11月に結婚。結婚式の準備をしている時にリンカーンは再度躊躇い、どこへ行こうとしているかを問われた時に、「地獄へだと思う」と答えている。案の定、メアリーはヒステリックであり、家庭生活は幸福ではなかった。

結婚後、1843年に長男のロバートが生まれた。1846年には次男のエドワードが生まれたが病気により3歳で亡くなった。1850年三男ウィリーが生まれたが12歳で亡くなっている。四男トーマス・"テッド"は18歳で心不全のために亡くなってしまう。長男のロバートだけが成人まで成長した唯一の息子となった。メアリーは、息子達をなくしたことでストレスに苦しみ、リンカーンを目前で暗殺されて以降は、精神に異常をきたし、死ぬまで精神病院の中で過ごした。アメリカの作家、デール・カーネギーには「彼(エイブラハム・リンカーン)が暗殺されたことは、彼の結婚にくらべれば悲劇というに足りない」とまで言われている。

リンカーンの暗殺は、1865年4月14日フォード劇場で、妻と、ラスボーン少佐、少佐のフィアンセを伴って観劇中、北軍のメリーランド州出身の俳優ジョン・ウィルクス・ブースに1.2mの至近距離から拳銃で後頭部左耳の後を1発撃たれた。しばらくの昏睡の後、翌朝午前7時21分にリンカーンの死亡が宣告された。憲法修正第13条の可決から僅か3ヶ月半後の事だった。

息子ロバートはその後、政治家となり共和党に所属し、第35代アメリカ合衆国陸軍長官を務めた。結婚もし子供を授かったが曾孫の代で血筋は断絶している。尚、リンカーンの母ナンシーの子孫は、今日まで続いており、俳優のトム・ハンクスはそのひとりであるという。

20060317011432_2013092917222591a.jpgエイブラハム・リンカーン  末っ子のタッドとリンカーン      妻メアリー・トッド・リンカーン ラシュモア山の彫像・一番右がリンカーン

リンカーン -うつ病を糧に偉大さを鍛え上げた大統領- [単行本]


◆内部関連記事◆

南北戦争の最中、インディアンと行動を共にした北軍兵士の物語→ダンス・ウィズ・ウルブズ(フィクション)
南北戦争中に正規軍に入隊せず南部ゲリラとして戦った男達の物語→シビル・ガン 楽園をください(フィクション)
南北戦争で脱走兵となり、恋人の元へ帰った南軍兵士の物語→コールド マウンテン(フィクション)


★外部関連記事★

雑文亭・tok.読書雑感:エリック・フォーナー『業火の試練 エイブラハム・リンカンと奴隷制度』を読む
本書は森本奈理訳、2013年7月、白水社刊行です。総ページ472ページの分厚い本です。気安く読めません。訳者あとがきの冒頭を若干引用します。*本書はEric Forner, The Fiery Traial: Abraham Lincoln and American Slaveryの全訳である。・・

エイブラハム・リンカーン 詳細年表 
1809年2月12日ケンタッキー州ハーディン郡(現ラルー郡)ホジェンヴィル付近に生まれる・・・。

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